朝日新聞11月7日朝刊より無断で掲載しています。
〇米国の歴代大統領に愛された映画に、西部劇「真昼の決闘」がある。アイゼンハワー氏やレーガン氏たちが好んだことはよく知られる。クリントン氏に至っては、20回以上も観たと本人が語っているというから、かなりのファンらしい▼映画の筋書きは、ゲーリー・クーパー演じる保安官が、無法者から町を守る話だ。だが、住民は冷ややかで、誰も彼を手助けしない。平和主義の妻も逃げていく。孤軍奮闘。それでも、ひとり銃をとる保安官の姿に、大統領たちは自らを重ねたか▼「クーパーはひとりで戦ったが、今度は全世界が味方についている」。首相だった小泉純一郎氏がそう語ると、ブッシュ氏は満面の笑みで喜んだ。そんな逸話も残る。2001年、自分たちの正義を掲げ、対テロ戦争を始めるころだった▼きのう大統領選の開票を見ながら、改めて思った。米国とは何だろう。米国の大統領とはいかなる者か。強きを求め、悪党を武力で倒す。西部劇の保安官は間違いなく、昔ながらの米国らしさである▼ただ、それはすべてではない。自由を尊び、民主を重んじる。差別に苦しみつつも、多様性を追う。理想と現実の差はあっても、多くの異なる顔が寛容にして混在するのが、米国ではなかったか▼大統領選では、そんな人々がギュッと内向きに閉じ、混じりあわない二つのかたまりとなった。勝利宣言をしたのはトランプ氏だった。分断の混迷はさらに進むのか。国際社会はいかに揺さぶられるのか。深憂は尽きない。
